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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)3582号 判決 1999年1月19日

大阪市住吉区苅田九丁目一五番三四号

控訴人(原告)

カメヤマ株式会社

右代表者代表取締役

小田部猛

右訴訟代理人弁護士

安江邦治

東京都荒川区東日暮里六丁目五五番一〇号

被控訴人(被告)

佐藤油脂工業株式会社

右代表者代表取締役

佐藤一元

右訴訟代理人弁護士

杉林信義

仁平勝之

富永豊子

右補佐人弁理士

内正秀

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決別紙目録(3)の包装箱のローソクを譲渡してはならない。

三  被控訴人は、その占有する同目録(3)の包装箱及びローソクを廃棄せよ。

四  被控訴人は、控訴人に対し、一三〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

六  仮執行宣言

第二  事案の概要

以下に付加する他は、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

なお、原告は、原判決が原告の主張として摘示するところは原告の主張を正解しないものであるというが、訴状や原審準備書面の内容、本訴提起前の通告書や警告書の内容に照らしても、原判決の事実摘示中に原告の主張を正解しない部分は認められない。

(原告の当審主張)

原判決別紙目録(1)の包装箱(原告包装箱(1))及び同目録(2)の包装箱(原告包装箱(2))はそれぞれが独立して周知性・著名性を有する原告の商品表示であって、被告包装箱はそのいずれにも類似する。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、原告包装箱(1)(2)の双方に共通する特徴それ自体が原告の商品表示として周知性あるいは著名性を有するものとは認められないと認定判断するが、その理由は、原判決「事実及び理由」中の「第五 争点に対する当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  原告の当審主張について

当裁判所は、原告包装箱(1)(2)がそれぞれ独立して原告の商品表示として周知性あるいは著名性を有するか否かはともかくとして、被告包装箱は原告包装箱(1)(2)に類似するものとは認められず、その点において原告の当審主張は採用できず、結局本件請求は理由がなく棄却すべきものと認定判断する。その理由は次のとおりである。

1  ある商品表示が不正競争防止法二条一項一号又は二号所定の他人の商品表示と類似のものにあたるか否かについては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観・称呼又は観念に基づく印象・記憶・連想等から両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和五九年五月二九日第三小法廷判決・民集三八巻七号九二〇頁参照)。右の観点から以下原告包装箱(1)(2)と被告包装箱の類否を検討する。

2  外観

(一) 原告包装箱(1)の外観は、正面・背面が縦長長方形、左右側面・上面・底面が横長長方形の扁平な直方体をなし、各面の地色が紺地色で白色の縁取りがされた基本的形状を有するものであるが、その具体的形状は次のとおりである。

(1) 正面に、縦長長方形の上部が緩やかな円弧状になった窓が大きく設けられ(その窓から中に収納されたローソクを見ることができる)、その上部中央に赤色の原告登録商標(ロゴ)があり、さらに最上部に「KAMEYAMA」の文字が白色で左右にパノラマ形にひろがって記載され、窓の下部(最下部)に「カメヤマ」の文字が黄色で横一列に大きく書かれている。

(2) 背面に、中央部のほぼ半分を占めるように、左右に脚部が開いた青色燭台(三基用)があって三本の長くて太い白色ローソクが立てられ、それぞれに赤い炎が燃え、その明かりが広がる様をイメージした四個の同心円(中央から順に黄色・白色・灰色・青色と色分けされている)が炎を中心として描かれ、三本のローソクの間を跨ぐように「暑」「中」「保」「証」の文字が青色で小さく記載されている。また、右同心円の上部(最上部)中央に赤色の原告登録商標(ロゴ)があり、燭台の下部に白抜きの長方形状の枠内に使用上の注意などの説明文が記載され、その下に黄色で「カメヤマローソク」(末尾に小さく二段に分けて「株式会社」)の文字が書かれている。

(3) 左右側面に、赤色の「カメヤマ」・白色の「ローソク」の各文字が真横に並んで書かれている。

(4) 上面と底面に、それぞれ中央に赤色の原告登録商標(ロゴ)があり、それを挾むように上部に「三号」「20本入」、下部に「正味」「225G」の文字が白色で記載されている。

(二) 原告包装箱(2)の外観の基本的形状は原告包装箱(1)と同じであるが、その具体的形状は次のとおりである。

(1) 正面に、縦長長方形の上部が緩やかな円弧状になった窓が大きく設けられ(その窓から中に収納されたローソクを見ることができる)、その上部中央に前記(一)(二)と同様の同心円状に炎を出して燃えるローソク三本を立てた青色燭台(三基用)が小さく描かれ、その燭台を挾むように左右に分けて「最高」「級品」の文字が青色で横一列に書かれている。また、窓の下(最下部)には「カメヤマ」の文字が黄色で大きく横一列に書かれ、その文字と窓との間に「225G」「20本」等の文字が白色で記載されている。

(2) 背面に、右端の上下全体に白色の太いローソク一本が描かれ、右ローソクの本体に説明文(「燃焼時間約1時間40分 実物大」)が黒色で記載され、ローソクの左脇に全体の五分の三程を占める縦長長方形状の白枠が設けられ、その枠内に使用上の注意等の説明文が記載され、その枠の下(最下部)に「カメヤマ」(末尾に小さく二段に分けて「株式会社」)の文字が黄色で比較的小さく記載されている。

(3) 左右側面に、赤色の「カメヤマ」・白色の「ローソク」の各文字が真横に並んで記載されている。

(4) 上面と底面に、それぞれ上部に「大ロ-3号」の文字が白色で、中央部に「225G20本」の文字が白色でかつ白枠に囲まれて各記載され、下部に赤色で「カメヤマ」・白色で「ローソク」の文字が横に並べて記載されている。

(三) これに対し、被告包装箱の外観は、基本的形状は原告包装箱(1)(2)と同様であるが、具体的形状は次のとおりである。

(1) 正面に、太く長いローソクを形どったように幅が全体の三分の一強の縦長長方形でその上部に山の字型の突起のある窓が設けられ(その窓から中に収納されたローソクを見ることができる)、その山の字部の上部に赤い炎が燃え、その明かりが広がる様をイメージした四個の同心円が炎を中心として白線で描かれ、うち中央から三個の円が黄色く塗られており、その炎の上部に白色で「ローソク」の文字が左右に記載されている。さらにその上部(最上部)には赤色で「TAKARA」と左右に大きく記載され、窓の左右には分けて「品質」「保証」の文字が薄青色で書かれ、窓の下には「S-4号 20本入」「225g」の文字が横二段に白色で記載されている。

(2) 背面に、中央下部に長さが上下の約四分の一を占める横長長方形状の白抜き枠が設けられてその中に使用上の注意が記載され、その上に同じく横長長方形状の白抜き枠が小さく設けられてその中に使用方法が図示され、その上部に、小さな青色燭台(一基用)に一本の白色ローソクが立てられ、それに赤い炎が燃え、炎を中心に明かりが広がる様をイメージした三個の同心円とその外周に光が放散するように黄色の短い線が放射線状に小さく描かれている。そして、その図柄の上(最上部)に薄青色で横に「暑中保証」の文字が小さく記載され、最下部に「製造元」の文字と「東京 タカラローソク本舗」の文字が二段に白色で小さく記載されている。

(3) 左右側面に、赤色で「TAKARA」・黄色で「特撰」・白色で「ローソク」の各文字が横一列に大きく記載され、文字全体が薄青色の線でローソクを形どった枠に囲まれている。

(4) 上面に、赤色で「タカラ」・黄色で「ローソク」の文字が横にアーチ状に大きく記載され、その下に「S-4号 20本入」「225g」の文字が白色で二段に小さく記載されている。

(5) 底面に、上部中央に赤色で大きく「宝」と記載され、その下に「S-4号 20本入」「225g」の文字が白色で二段に小さく記載されている。

(四) 以上の各外観の具体的形状を通常の取引者や需要者が全体的に観察するとき、とくに取引者や需要者の注意を惹く印象的部分で自他識別機能を有すると思われる部分は、

(1) 原告包装箱(1)にあっては、正面に上部が円弧状になった縦長長方形の大きな窓があり、製造元を示す「KAMEYAMA」(白色)「カメヤマ」(黄色)の各名称と赤色の原告登録商標(ロゴ)が三カ所に大きく記載されている点、背面に赤色の原告登録商標(ロゴ)と青色の燭台に立てられた三本の大きなローソクにいずれも赤い炎が燃え、その明かりが周囲に広がっている図形がある点、左右側面に「カメヤマ」「ローソク」の文字が色分けされて大きく記載されている点、上面・底面に赤色の原告登録商標(ロゴ)が記載されている点であり、

(2) 原告包装箱(2)にあっては、正面に原告包装箱(1)と同じ窓があり、その上部に原告包装箱(1)と同様の青色燭台に三本の火のついたローソクが立てられた図形が比較的小さく描かれ、窓の下部に「カメヤマ」(黄色)の文字が比較的大きく書かれている点、背面に白色の大きなローソクが右端に描かれ、その左側に説明文の記載された白抜きの大きな枠がある点、左右側面に「カメヤマ」「ローソク」の文字が色分けされて大きく記載されている点である。

(3) これに対し、被告包装箱にあっては、正面に縦長長方形の窓があるとはいえ、その大きさは原告包装箱(1)(2)の窓に比較して幅が狭くて小さい上、窓の形状自体が山の字型にローソクを形どっていて、その上部に直接赤い炎が燃えて周囲を照らしている図形を配することによって、見る者をして窓と図形とが相まって点火されたローソクを想い描かせる点に自他識別機能があると認められ、この点で原告包装箱(1)(2)のいずれとも顕著な差異があり、背面も薄青色の燭台に一本の白いローソクが立てられ赤い炎が燃えて周囲を照らしている図形があり、原告包装箱(1)(2)にある燭台上のローソクと比較するとき、炎の周囲の同心円の形状・色彩が似ているとはいえ、ローソクの本数が明らかに異なり、それに伴う全体の形状の差異も無視できず、その他に説明文を記載した白抜き枠の位置・形状や登録商標の有無などをも加味して比較すると、一見して明らかな差異があるといわざるを得ない。また、左右側面や上面・底面に「TAKARA」「タカラローソク」「宝」と色分けされた大きな文字が記載されている点でも、原告包装箱(1)(2)のいずれとも容易に区分されるものと認められる。

(4) 各包装箱の基本的形状は色彩も箱形も縁取りもいずれも一般的なもので、それ自体が自他識別機能を有するものではない。

3  称呼

原告包装箱(1)(2)の称呼は、「カメヤマ」又は「カメヤマローソク」であるのに対し、被告包装箱の称呼は「タカラ」又は「タカラローソク」というもので、「ローソク」は一般名称であるから、これを除いた「カメヤマ」と「タカラ」が称呼として類似しないことは明らかである。

4  観念

前記外観や称呼からすると、原告包装箱(1)(2)は、外観からは格別の観念は生じないし、称呼からは製造元である「カメヤマ」以外の観念は生じないのに対し、被告包装箱は、称呼からは「タカラ」以外の観念は生じないものの、外観からは正面の窓と図形から一本の太いローソクが観念されるから、観念にも相違があるというべきである。

5  したがって、原告包装箱(1)(2)と被告包装箱とを時と場所を異にした離隔的観察によって見たときは、双方の外観・称呼・観念から受ける印象や連想等はかなり相違するもので、全体的に見て取引者や需要者が双方を類似のものと受け取り、その出所の識別を誤ることはないものというべきである。

第四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく棄却すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一〇年一一月二五日)

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

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